邪心(Good impostor)

悪意の無い詐欺師。




時折、誰かを騙したくてたまらなくなる。


騙すことで何か利益を得たいわけでも、
陥れたいわけでもない。
ただ、純粋に知恵比べ的に騙したくなる。
目的なんてない。
あえて言うのなら、ドッキリをばらした瞬間のような、あの、
プギャーーーーのためだけに。
まあなんていうか小学生。
握りこぶしを突き出して、「どーっちだっ?」
でもどっちにも何も入ってなくて、指差して笑う、みたいな。


騙すことは容易い。
常識を覆す。
ただそれだけで、人はいとも簡単に騙される。
常識とは、集団内で共有された固定観念だ。
そこから外れたものは、
狂人となるか、悪人となるしかない。
だが、詐欺師としてそれは美味しくない。
詐欺師は詐欺師に見えないことが最大の武器だ。
騙すためには常識を知り尽くしていなければならない。
常識を知らなければ、違和感の無い嘘など生まれない。
根拠の薄い常識を蝕み、
常識を非常識へと掏り返る。
偽りの世界を作り出し、
現実との境界を徐々に薄めていく。
気づいたときには疑心暗鬼の渦の中。
溺れるだけの愚かで愛しい隣人に、
優しい笑顔でとびっきりの嘘を差し伸べるのだ。
縋り付いたその瞬間がたまらなくたまらない。
悪人だ。そして、変態だ。


こうやって警戒させることで、
さらに騙しやすい環境を作り出す。
それに、そもそもの信用が薄ければ、
騙した後の罪悪感もごく薄い。


ああ、どうしようもなく性悪だ。腹黒だ。